戯れにただ。

 ネタがない。
 書くことのあまりのなさに自分でも驚き、取るもの取らずとりあえず外出してみた。
 去年まで、生粋の仕事人間であり1日の98%を仕事に費やしていたので、仕事のない現状にたまに戸惑わずにはいられないのだ。D氏との生活が想像よりも穏やかで楽しかったので救われたが、さもなければ定年退職後のワーカホリックのように呆然としていたところだろう。
 放浪するならば公園に限る、という謎な思い込みのまま出かけた先はCentral Park。決してご近所ではないのだが、自宅から15分程度ざくざく歩けばそのままこのNY最大の公園にたどり着くのだ。気分転換と運動を兼ねる時、ここほど面白いところは余りないのではないだろうか。
 まだ花冷えの肌寒い4月にもかかわらず、公園内には和気藹々とした雰囲気の人々が多かった。動物園やコンサートといった目的意識がなくても楽しめるのがこの公園である。家族、夫婦、友人、サラリーマン、絵描き……それらを見ているだけでも何となく楽しい平和な気分になる。
 そして自然豊かなこの公園で、思わず目を引くのが動物たちである。
 見ていて楽しいのが、やはりリス達。人に馴れているのか、近くまで寄ってきてつぶらな瞳でこちらを見上げたりする。自分の可愛さわかってやっているだろうこいつら、という気がしてならない。

 とりあえず、『営業担当』と名づけた。
 ……幾分肥え気味なところもまたよし。
 そんな営業担当たちと戯れていたら、ふいに目の端に美しいピンクが広がった。
 色に誘われて再びてくてくと移動。未だ枯れ木の多い4月初頭だったが、その区画だけは鮮やかに色づいていた。


 桜である。
 去年まで約3年間をシンガポールで過ごしており、夏と冬には帰国したが春に日本にいたことがしばらくない。3年前の出国も桜の前であったため、4年ぶりに目の前に桜の木が広がっていた。
 自分でも予想外なことに、思わず目頭が熱くなった。
 さすがにここで泣いたら変人まっしぐらだと思い自重したが、それでもこれほどに感動するものかと驚いた。

 そして同時に、飲みたくなった(この発想は基本的に変わらない)。
 やっぱり桜の下では、ゴザ引いてビールとおつまみで花見の宴だろう!と確信的に思わずにいられない。もうしばらくすると、NYのそこかしこで桜が満開になるらしい。宴の衝動と戦いながら、それでも桜を見に私はてくてくと出かける。