絵画の堪能の方法。

 Frick Collection*1――
 鉄鋼王ヘンリー・フリック氏が生前に集めた個人的なコレクションが展示されている美術館。小規模だが内容が充実していることで有名であり、個人の収集とは考えられないほどの魅力ある作品群が多いことでも知られている。
 昨夏遊びに来たときにD氏の研究室のボスに勧められ気になっていたところ、英会話の先生も絶賛。これは行くしかないかと、少しおめかしして遊びに行ってみた。

 セントラルパークの向かい側に雰囲気のある建物があると思っていたら、まさにここがその場所だったらしい。
 コートを預けて恐る恐る中に入ると、豪奢で静かで品のあるたたずまいに唖然とさせられた。部屋毎にコンセプトが異なるが、一貫して背筋の伸びるような美しさがある。そして何よりも、その充実したコレクションは圧巻の一言。
 フェルメールの名高い3作品があることで知られるこの美術館だが、個人的にはフランソワ・ブーシェ(Francois Boucher)がおすすめである。フリック氏とは女性の好みに共通するものがあるらしく(?)多く心惹かれる女性像があったが、ブーシェの絵画は特に気にかかった。
 何よりも気に入ったのは、連作・四季のシリーズ。特に大きく取り扱われているわけではなく、部屋と部屋の間にある通路に展示されていたものだが、個人的に偏愛し思わず愛でた。
 女性の愛らしさが、全開に描かれているとまとめればいいだろうか。「春」は恥らう乙女、「夏」は裸でくつろぐ乙女、「秋」は伏し目がちに…と多種多様に描かれる乙女の姿だが、個人的に「冬」の可愛らしさには胸を打ちぬかれたかと思ったほどだ。

 ↑実際の、その「冬」の乙女。写真ではそのよさがほとんど出ていないが、寒さに震えそうな雪景色の中、柔らかそうなドレスに毛皮だけまといにっこりとこちらを見て微笑むその姿。実際間近で見ると、その笑顔のキュートさに、人柄のにじみ出る優しげな表情に、何より眼差しの強さに目を奪われずにいられない。
 ………おお、これが恋というものかしら*2
 いずれにせよ、じっくり見るだけでも楽しいし個人的なお気に入りを見つけると一層愛の深まる美術館である。是非NYにお越しの際は、足を運んでみて頂きたい。

*1:http://www.frick.org/

*2:モーツァルトの歌劇『フィガロの結婚』における「恋とはどんなものかしら」に対する返答な感じで。