樹木を名づける。


 ご近所でしばしば見つける謎の木。
 何だかそこら中で見かけるのだが、何の木なのかがいつもよくわからない。実は角度によるとかなり桜に見えるのだが、色は真っ白である。
 私事だが、幼少期「桜の木の下には死体が埋まっている」と結構本気で信じていた時期がある。誰に言われたのかどこで読んだかは不明だが、私の脳裏では「むかーしむかし」の口調の人がいつもこのように囁いていた。
 「桜が、何故にあんなに美しいかの理由を知っているかね?本当は桜はただ真っ白な美しい花を咲かせる木だったのだよ。しかし、ある時桜の下に美しい女性の死体が埋められた。白い桜はその女の血を吸って、段々と花が赤く染まりはじめた。花の白と血の赤の融合、桜があのような美しい色になったのはそれからだと言われておるよ……ふぉっふぉっふぉっ。」
 …………どこが発祥なのだろう?
 たまに疑問に思うが、何故か信じていた。
 作家梶井基次郎は『桜の樹の下には』という名短編にて、
 「桜の樹の下には屍体が埋まっている!これは信じていいことなんだよ。何故って、桜の花があんなにも見事に咲くなんて信じられないことじゃないか。俺はあの美しさが信じられないので、この二三日不安だった。しかしいま、やっとわかるときが来た。桜の樹の下には屍体が埋まっている。これは信じていいことだ。」
 という有名な冒頭文を述べているが、むしろ物足りなくて残念に思ったほどだ(この短編はこれとして完成されているので特に不満はない)。
 話は脱線したが、ということでこの桜っぽく見える白い木を「死体が埋まる前の桜」と名づけてみた。略して「死桜」。
 うーむ……ネーミングセンスは相変わらずゼロだ(穏やかな微笑み)。